このコラムは、特許業務法人 信友国際特許事務所 所長 角田芳末が
知財関連のトピックに関連して書き記したものです
 
弁理士という職業に必要なこと(弁理士受験新報7月号に掲載)2007(平成19)年 9月14日
 

◆ 私は、弁理士になって5年が経過したばかりの新米弁理士です。特許庁審査官経験により資格をいただきましたので、難関な試験を受けていません。この5年間で身をもって感じたことは、弁理士の仕事は決して楽な仕事ではないということでした。特許庁という大きな組織から、小さな特許事務所の経営者に転身した私がまずやらなければならなかったことは、私自身の能力アップでした。能力のない所長では所員はついてこないし、クライアントに対しても申し訳が立ちません。弁理士として恥ずかしい仕事はしないという強い思いもありました。

◆ 弁理士として必要な能力には、どのようなものがあるのでしょうか。この5年間の弁理士経験で気がついたことを申し上げたいと思います。私は、昨年、日本弁理士会と東京理科大が行った「知財プロフェッショナル研究」という共同研究セミナーで1時間ほどお話をさせていただきました。私は、その講演の中で「弁理士は知財職人。知財包丁を研げ。」と言いました。この講演の内容は「知財最前線からのメッセージ」(経済産業調査会)として出版されているので詳しくはそちらをご覧ください。職人の代表選手として料理人さんを挙げ、その料理人さんの腕であり、魂でもある包丁を弁理士の専門能力に例えたわけです。

◆ この専門能力がなくしては、クライアントと互角に渡り合うことができません。だから、専門能力を磨くこと、まさに「知財包丁を研ぐ」ことが大事だと言ったのです。さて、問題は「知財包丁」の中味です。料理人さんの「包丁」にも種類があるように、「知財包丁」も決して一つではありません。様々な包丁を持っていることが必要です。

◆ まず、その一つ(第1の知財包丁)は文章作成能力です。私は、つねづね、弁理士は、「作家」でなければならないと思っています。まず、発明者から発明の中味を聞き出します。これは、ある意味で「取材」です。取材した内容から、どのようにして明細書を作るかが職人弁理士の腕の見せ所なのです。

◆ 明細書をどのように作るかですが、いうまでもなくストーリーの展開が大事になります。ストーリーの骨組みを練り、権利として何を主張するかをクライアントの立場になって考える。これはまさに作家(ライター)の仕事です。知財作家といってもいいでしょう。文章がうまく書けない弁理士では、仕事になりません。弁理士でなければ書けない明細書、意見書を提示して、初めてクライアントに喜んでもらえるのだと思います。そのためにも、弁理士あるいは弁理士を志す人は、文章修行を怠ってはいけないと思います。

◆ 言うまでもなく、弁理士の作品は、あるときは明細書であり、あるときは意見書です。経験を積んでいけば、無効審判請求事件の審判請求書や訴訟の準備書面を作成するような仕事も任せられると思いますが、当面は明細書と意見書の作成が新人弁理士としての主な仕事となるでしょう。私は、明細書でも意見書でも、読みやすく、かつ論理明快でなくてはいけないと思っています。難解な読みにくい日本語では、クライアントが満足するはずもなく、また、そのような明細書は、審査官泣かせの明細書になってしまいます。審査官に印象の良くない明細書が良い結果をもたらさないことは想像に難くないことです。

 
 
 


 
 
 
 

◆ 次に、弁理士に必要な能力(第2の知財包丁)は、技術理解力です。これは、発明者の話す内容を正確に理解できる能力といってもよいでしょう。それには、新しい分野の出願依頼を受けたら、打ち合わせ前に十分な下調べをしておき、その技術分野の知識をある程度自分のものにしておく必要があります。打ち合わせ後に、発明者から一目おかれるかどうかは、極めて重要なことです。そのためにも、技術に関する会話が発明者と対等にできること、その準備を十分にしておくことが大切なのです。技術に対する飽くなき好奇心がなければいけません。新しい技術分野の出願依頼があれば、本を一冊読んで仕事に望むくらいの気概が必要でしょう。そうすれば、自分の知識が増えて、その上でクライアントからの信頼を得ることができます。まさに、一石二鳥です。

◆ 次に必要な能力(第3の知財包丁)は、知的財産法の知識です。特許法や審査基準の内容は当然のことですが、それ以外に、意匠、商標、不正競争防止法、著作権法など知財に関係する多くの法律や判例を勉強することが必要になります。その意味では、弁理士という職人は常にその頭脳を鍛えることが必要です。判例は知財研究の宝庫です。判例を読むことにより、必然的に弁理士に必要な様々な能力が身についてくると思います。

◆ 知財職人としての能力の最後(第4の知財包丁)は英語力です。私の事務所にもよく外国の弁護士さん、弁理士さんが来ます。外国の弁護士と話ができること、そしてメールで自由にコミュニケーションができることは、これからの弁理士としては、必須要件かもしれません。外国の法制度を知ることも重要です。知的財産制度の国際化の急速な進展を考えると、この第4の能力が、弁理士としての成功、不成功のカギを握ることになるかも知れません。

◆ 弁理士としての必要な能力を4つの「知財包丁」として取り上げました。これらの能力のほかに、もう一つ私が強調したいのはコミュニケーション能力です。私は、コミュニケーション能力とは、相手に自分を好きになってもらう能力ではないかと思っています。どんな人でも嫌いな人と一緒に食事をしたり、話をしたりすることを好みません。発明者や依頼人だって同じだと思います。話をしていて楽しい人と出願の打ち合わせをしたいと思うのが人情です。人の話をよく聞くことができて、しかも適確なコメントが言える人。こんな人と話をすると、何となく得した気分になります。どことなく元気をもらったような気がするのです。このような人はコミュニケーション能力がある人だといってよいと思います。
◆ そのために必要なことは、「誠意」をもってクライアントに接することが必要です。「誠意」とは、相手に対する「思いやりの心」です。自分本位で話をするのではなく、常に相手の立場になって話をすることです。決して嘘を言ってはいけませんが、クライアントの利益を最優先に考えて意見を述べることが大切だと思います。

◆ 大分前の話ですが、弁理士になった先輩が、「角田君、弁理士というのはね。全人格(オールパーソナリティ)で仕事をするものだよ。」と言ったことを思い出します。自分が弁理士になってみて、まさにその通りだと思いました。どんな世界でも、そこで一流の人は何とも言えない魅力を備えているように思います。専門的能力が高いだけでなく、人間的に魅力がある弁理士、それこそが皆様の目指す弁理士ではないかと思います。

◆ 以上、弁理士として必要な能力を、あれこれと述べてきましたが、私が受験生の皆様に言いたいことは、自己の能力向上のための日々の勉強なくしては、この世界で勝ち抜いていくことはできないということです。知財に関する法律や制度はめまぐるしく変わります。

 
 
 


 
 
 
 

技術もどんどん進歩していきます。弁理士である限り、これらの法律や技術の変化に喰らいついていかなければなりません。弁理士の仕事は「苦しみと楽しみが同居」しているように思います。若いうちは「苦労」は買ってでもしなさいといいます。苦労が多ければ多いほど、それが肥やしになって、自分の成長につながります。そして、後になって何とも言えない充足感(幸福感)を味わうことができるのです。

◆ 浅学菲才の身を省みず、短い弁理士人生で気づいたことを書いてみました。この小論は、弁理士修行中である私自身への自戒のメッセージでもあります。受験生の皆様に少しでも感じていただけるところがあれば嬉しく思います。私も、弁理士の名に恥じないように、日々、自分を磨いて行きたいと思っております。
(弁理士受験新報2007年7月号に掲載)