このコラムは、特許業務法人 信友国際特許事務所 所長 角田芳末が
知財関連のトピックに関連して書き記したものです
 
時の話題:ビジネス方法特許「今と昔」(群馬大学工業会会報原稿)
2005(平成17)年4月6日
 

1.ビジネス方法特許は何故ブームになったのか
「ビジネス方法が特許になる。」という記事が新聞や雑誌をにぎわしたのは、決して古い話ではない。私にはつい最近のことのように思われるが、今はそれが嘘のように下火になっている。
   「ビジネス方法特許」が何故、かってあんなに騒がれ、そして今影を潜めているのか、私なりに考えて見たい。
  1999年〜2000年にかけて、ビジネスモデル特許(ビジネス方法特許)が、知財社会の注目の的となった。2000年初めころには「ビジネスの方法が独占できる。」という魅惑的なフレーズが人々の心を動かし、あるいは他人に先を越されたら困るという不安感からかもしれないが、ビジネス方法関連の出願は急増することになる。
  そんな中で、「緊急特集:米国が仕掛けた特許爆弾『ビジネスモデル特許』」(TRIGGER2000年1月号)や「こんなものまで特許になる」(日経ビジネス2000年3月20日号)、「日本でも申請ラッシュ ビジネス特許の破壊力」など、ビジネス方法特許の保護強化に対する不安を駆り立てる記事や、新たなビジネスチャンスの到来への期待をあおるものなど、多くの新聞や雑誌がビジネス方法特許の特集記事を組んだ。
  ビジネス方法特許をここまで社会の注目の的に押し上げたのは、何と言っても1998年7月に出された米国CAFC(連邦巡回控訴裁判所)の判決である。俗に、「ステートストリートバンク(SSB)事件」あるいは「ハブ・アンド・スポーク事件」といわれるこの事件の特許権者はSSBではなく、Signature Financial Group Inc.という金融ファイナンスの企業である。
  この特許の中身の説明は省略するが、CAFCは、この判決の中で、数学的なアルゴリズムは、何らかの実際的な応用(practical application)、すなわち、有用で具体的でかつ実体的な結果(a useful, concrete, and tangible result)をもたらすものであれば、法定の主題(特許対象としての発明)になりうるとした。

そして、さらに「ビジネス方法は法廷の主題ではない」(ビジネス方法は例外)という概念は、いくつかの判例や特許庁のガイドラインから見て、もはや適用すべきルールではないとした。
  この事件が、世界的に大きく報道された結果、上述したような騒動が、日米、そして世界を駆け巡ったわけである。「ビジネス方法が特許になるらしいよ。」という報道は、今まで、特許には全く関心がなかった、銀行業界、あるいは証券業界、そしてインターネットを利用したサービスの世界まで、特許制度に無関心でいられなくしたといえよう。

2.ビジネス方法特許出願の増加に対する特許庁の対応
  特許庁は、世の中の動きの中で、当初からビジネス方法関連発明はソフトウエア関連発明の一形態であると言い続けた。すなわち、1999年12月にホームページ上で公表した「ビジネス関連発明の審査における取り扱いについて」と題する短文の中で「最近、・・・(略)・・・汎用コンピュータや既存ネットワーク等を利用した新しいビジネス方法に関する発明(以下、「ビジネス関連発明」という。)が活発になされています。『ビジネス方法』の定義については、必ずしも関係者間でコンセンサスが得られているわけではありませんが、このビジネス関連発明とされている殆どは、ソフトウエア関連発明の一形態として捉えることができるものと認識されています。
  ビジネス関連発明とはいえ、ソフトウエア関連発明の審査基準に従って審査されるということを明言したわけである。これに関連して、特許庁は、ソフトウエア関連発明の審査基準(正式には「特定技術分野の審査基準 第1章 コンピュータ・ソフトウエア関連発明」という。)を改正し、平成12年(2000年)12月28日に公表した。

 
 
 


 
 
 
 

2000年から2001年にかけてはビジネス方法関連の特許出願は急増している。特許庁は2001年4月に、特許審査第四部の組織を変えて「電子商取引」という審査室を作り、ビジネス方法関連発明の審査体制を整備した。このころ、特許審査第四部として、ホームページ上で「特許にならないビジネス方法関連発明の事例集」を公開している。これには「いたずらに無駄な出願をしても特許になりませんよ。出願するなら特許庁の審査基準をわかってから出願してください。」というメッセージがこめられている。
  また、審査に必要な文献を集め、キーワードを付与して検索しやすくしたCSDB(Computer Software Data Base)を充実させた。特許庁が利用している分類(国際特許分類をさらに細分化したFIという内部分類)を改正して、この分野の特許審査の効率化を図るようにした。私は担当の審査官のご苦労を長いこと見てきたが、特許文献だけでなく、新聞情報や、図書、雑誌(しかもビジネス雑誌)、それからインターネットサイトからの情報など、ありとあらゆるところから発明の審査に関連する情報を捕まえてくる。まさに、審査のプロである。中には、JETROの図書館で貿易関係の情報を見つけてきた審査官もいた。そんな状況を繰り返しながら、次第に審査体制の充実が図られていったと思われる。

3.ビジネス方法関連発明はどのように明細書に記載したらよいか
  ビジネス方法関連発明は、ソフトウエア関連発明の一形態であると述べた。それでは、どのように明細書とクレーム(請求項)を作成すれば特許の対象である発明として認められるのかということについて、簡単に述べておく。

 ソフトウエア関連発明の審査基準では、発明として認められるためには、クレームに記載した発明に「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されていること」が必要だとしている。ビジネス方法関連発明も例外ではない。難しい表現になっているが、簡単に言えば、クレーム上に「コンピュータシステム」あるいは「ネットワークシステム」を用いた具体的かつ技術的なシステムに対応する手段あるいは具体的かつ技術的な処理を行う方法に対応する工程(ステップ)が明確に記載されていることが求められるのである。そうでない限り、発明として認められないため、サーチの対象にもならない。つまり、土俵に上がったけれども、すぐにお帰りくださいということになってしまう。今、弁理士として出願の仕事をしているが、クライアントが持ってくるものの中には、具体的なシステムを実現する段階に至っていないものが相当数ある。

4.ビジネス方法特許は何故拒絶されるのか
  ビジネス方法関連発明は特許になりにくいと言われている。実際特許庁が発表したビジネス方法関連発明の特許率は年々下降している。2004年4月の公表のデータによれば、2000年には、25%の特許率が2003年では8%台に落ちている。特許庁の平均の登録率が50%前後であるから、この数字が極めて低い数字であることがわかる。
(特許庁ホームページhttp://www.jpo.go.jp/tetuzuki/index.htm) 何故、このように低い特許率になるのかは個別に分析してみないと何とも言えないところであるが、想像してみる限りでは、大量の特許出願が公開される時期が来て、ビジネス方法関連の文献が揃ってきたこと、非特許文献のデータベースが充実してきたこと、さらには、進歩性の判断において、ビジネス関連発明は、審査官から見て容易性が立証しやすいことが上げられるのではないかと思われる。

 
 
 


 
 
 
 

5.おわりに:ビジネス方法特許はマン馬券に似ている
  かって、ビジネス方法特許が、押し寄せる荒波のごとく、特許庁を駆け巡った。長官から審査官までこの話題で振り回された感が無きにしもあらずである。私自身も、ブームとなった1999年から2002年4月まではその渦中の一人であった。いくつかの講演にも引っ張り出され、また新聞の取材に対応することもあった。
  言うまでもなく、特許制度は発明の保護と利用を図ることにより、産業の発達に寄与することを目的とする制度である。ビジネス関連発明であっても、独創的であるがゆえに、その公開を促し、それを保護することが産業の発達に寄与するものであれば、当然特許権として保護されるべきである。ビジネス方法関連発明は拒絶率が高い。この傾向は暫く続くことになろう。しかし、コンピュータやインターネットを利用した有益なビジネスを思いついたら、それで莫大な利益が転がり込むことになるかもしれない。私は、ある企業で最近した講演の中で「ビジネス方法特許はマン馬券に似ている」と話した。むやみやたらに出願するべきではないと思うが、何かひらめくものがあったら買ってみる(出願してみる)のも面白いのではないか。
参考図書:竹田稔、角田芳末、牛久健司編「ビジネス方法特許−その特許性と権利行使−」(青林書院発行)